「塗装業でAIなんて、うちには関係ない」
そう思っている経営者の方は、決して少なくありません。
現場仕事・職人気質・アナログ文化。建設業・塗装業は、DXの恩恵が最も届きにくい業種のひとつとされてきました。
本記事は、その前提を検証するために実施したモニタープログラムの記録です。従業員30名の塗装会社にご協力いただき、弊社開発中のORJO-AIのモニター検証(14日間)にご協力をいただきました。結論から申し上げると、「使える部分」と「使えない部分」がはっきり分かれました。
その両方を正直にご報告します。
ご協力いただいた企業の社長・スタッフの皆様には、貴重なお時間と率直なフィードバックを提供いただきました。
この場を借りて、心より感謝申し上げます。
塗装業でDXが進まない理由
「AIやDXは、デスクワークの人が使うものだ」
そう感じている現場の方は多いのではないでしょうか。
塗装業・建設業でDXが進まない理由は、ツールの問題ではありません。現場の構造そのものに、デジタル化を阻む要因が重なっています。
現場で聞こえてくる声を、そのまま並べてみます。
- 職人はスマホに慣れていないし、入力を嫌がる
- 現場は汚れる・濡れる・騒がしい。タブレットなんて使えない
- 導入しても、続かなかったら意味がない
- ITに詳しい人間がいない。誰が管理するのか
- 外国人スタッフも多い。ツールが複雑だと余計に混乱する
- そもそも、今の業務でも回っている
どれも、根拠のある不安です。実際にITツールを導入しては頓挫した経験を持つ経営者の方は少なくありません。
「DXより、目の前の現場をこなすことの方が大事」という判断は、間違っていないとも言えます。
では、なぜ今回の企業はAI導入の検証に踏み切ったのでしょうか。
きっかけは、北海道札幌市におけるAI研修セミナーの開催でした。
【実施レポート】北海道初!塗装業向け生成AI×SNS実践セミナー
座学でAIの概念を学ぶのではなく、実際に自分の業務にAIを当てはめて試す形式の研修です。
「難しそう」「自分たちには関係ない」という先入観が、研修の場で少しずつほぐれていきました。
「これなら日報に使えるかもしれない」「配合計算を任せてみたらどうなるか」
そういった現場目線の発想が生まれたのが、試験導入のスタート地点でした。
研修で感じた小さな可能性が、実際の検証につながったのです。

塗装業の現場でDXを検証した背景
建設業・塗装業のDXは、掛け声だけが先行してゆく事例は多いです。
ITツールの導入事例は増えていますが、「現場の職人が実際に使い続けているか」という視点での検証データは多くありません。
特に従業員30名規模の中小塗装会社では、専任のIT担当者もなく、導入後の定着が最大の課題になります。
今回のモニター検証の出発点は、シンプルな問いでした。
「現場の職人が、スマートフォン1台でAIを使えるか。」
「そして、使い続けられるか」。
理想論ではなく、現場のリアルを数字で示す必要がありました。
そのために必要なのは、実際の企業との協働です。
快くご協力を引き受けてくださった同社には、単なるモニター以上の価値ある現場データを提供いただきました。
塗装業でAIは使える?「モニター検証の概要」
本検証は2026年2月3日〜2月18日の期間に実施。
休日を除く実働14日間のモニター検証(無料)で行いました。
【道内企業限定】生成AI・DX導入支援|2週間無料モニターで現場を自動化
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象企業 | 塗装業(従業員30名) |
| モニター実施期間 | 稼働14日間(2026年2月3日〜2026年2月18日) |
| 検証対象スタッフ | 社長1名 チームリーダー4名 |
| 導入前の業務スタイル | 手書き日報・口頭伝達中心のアナログ業務 |
| 検証したAI業務 | 日報作成/議事録作成/特殊塗装配合計算 |
| 使用ツール | ORJOAI・スプレッドシート連携アプリ・音声入力 |
検証対象は、社長1名 チームリーダー4名に絞りました。
全社一斉導入ではなく、現場リーダー層からの浸透を狙った構成です。
アナログ業務が中心の職場環境のため、操作の簡便さと習慣化のしやすさを最優先の設計基準に置きました。
AIを活用した業務
今回の検証で対象にした業務は3つです。いずれも「毎日発生する・繰り返しが多い・アナログコストが明確」という条件で選定しました。
① 日報作成
手書きからAI入力補助への切り替えです。
音声入力やテンプレート入力をベースに、スプレッドシートへの自動集計まで設計しました。
② 議事録作成
会議・朝礼の内容をAIで文字起こしし、要点を整理する業務への応用です。
音声認識精度と現場ノイズへの対応が課題になることが想定されました。
③ 特殊塗装の配合計算
モールテックス(特殊左官・塗装材)の配合計算にAIを活用しました。
経験と感覚に頼っていた配合率の算出を、AIによる数値算出で補助する実験的な取り組みです。
導入サポート内容を公開
ツールをお渡しして終わり、という導入は行いませんでした。現場定着を最優先にした支援設計を組みました。
まずは、社長含めたチームメンバー、弊社担当スタッフでLINEプロジェクトグループを作成。

参加メンバー間で、塗装現場の悩みやご要望などの情報を共有しながら進めていきました。
初期段階では操作説明と個別フォローを実施し、実際の業務フローに沿ったテンプレートや解説動画をご用意しました。
日報AIは現場スタッフからのフィードバックを受け、途中で仕様変更を行っています。
「最初のバージョンが複雑だった」「操作が面倒」というご意見が複数あったためです。
スタッフの操作習熟度・デバイスの使い慣れ度・業務の繁忙期、これらを考慮しながら、段階的に機能を拡張する方針を取りました。
一度に全機能を使わせない構成が、定着率の観点では有効という判断です。
日報業務の改善結果

日報業務は、今回の検証で最も明確な改善効果が出た領域です。数値でご確認ください。
AI導入前
- 日報作成:手書き、3分 × リーダー4名
- 社長による EXCEL 転記:60分/日
- 郵送費:500円 × 4通 /月
AI導入後
- 日報作成:AI入力補助、1分 × リーダー4名
- スプレッドシート自動集計:社長作業20分/日
- 郵送費:0円
入力作業は1人あたり3分→1分に短縮されました。社長の集計・転記作業は60分→20分に削減されています。郵送費はゼロになりました。数字だけ見れば、効果は明確です。
業務効率ROIの比較
| 項目 | AI導入前 | AI導入後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 日報作成時間(1人あたり) | 約3分 | 約1分 | ▲67% |
| 日報集計・転記(社長) | 約60分/月 | 約20分/月 | ▲67% |
| 郵送費(月間) | 約500円 × 4通 | 0円 | ▲100% |
| 集計精度 | 手動転記(ミス発生の可能性) | 自動集計 | ヒューマンエラー削減 |
※本記事の作業時間は、現場ヒアリングおよび平均的な作業時間をもとに試算しています。
月間の直接的なコスト削減額は試算上わずかですが、日報入力の効率化により現場全体で1日あたり約8分の作業時間が削減されています。
これは月間で約3時間、年間では約36時間の業務削減に相当します。
さらに社長の日報集計作業も60分→20分に短縮され、月40分の管理工数削減につながりました。
ただし、これらの効果は「入力が定着した場合」の前提です。実際には入力習慣の形成に時間がかかります。
その点は、後述するスタッフコメントにも率直に表れています。
特殊塗装のAI検証

今回の検証で最も実験的だったのが、モールテックスの配合計算へのAI活用です。
モールテックスは特殊な左官・塗装材で、配合比率が仕上がりに直結します。経験豊富な職人でも配合計算には10〜15分を要していました。これを弊社ORJOAIに学習させ、配合率の算出を行わせた結果、算出時間は約10秒に短縮されました。
ただし、重要な前提があります。
湿度・気温・下地の状態によって最適な配合は変わります。
AIが算出した数値は「起点」であり、最終的な判断は必ず職人が行う設計にしました。これは検証段階から一貫した方針です。
AIの出力を現場でそのまま適用することは、現在の精度では現実的ではありません。
| 項目 | AI使用前 | ORJOAI使用後 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 配合計算時間 | 10〜15分 | 約10秒 | 算出のみ |
| 最終判断者 | 職人 | 職人(変更なし) | AI出力は参考値 |
| 環境調整の対応 | 職人の経験・感覚 | 職人の経験・感覚 | AI代替不可 |
計算の「起点」を約10秒で算出できる点は、現場において実用的な価値があります。
従来は配合計算だけで10〜15分程度を要していましたが、AIが基準値を即座に提示することで、職人は計算ではなく仕上がりの判断に集中できるようになります。
一方で、湿度・気温・下地状態による調整は人の目と経験でしか補えません。
AIが算出する数値はあくまで「判断の起点」であり、最終的な配合判断は職人が行う設計としています。
この役割分担を明確にしたうえで活用することが、特殊塗装領域でAIを現実的に使うための前提条件になります。
現場スタッフの声
以下は、検証終了後に収集した社長・スタッフのコメントです。
原文のまま掲載しています。
率直なお言葉を寄せてくださった同社の皆様に、改めて感謝申し上げます。
社長評価
良かった点
簡単に作業日報ができる
スプレッドシートに入るので楽
モールテックスの配分AIは非常に楽だった。
議事録も簡単で実用できる。
悪かった点
AIがまだ浸透してないのでまだ抵抗がある。
(使っていけば改善はできる)
モールテックス、塗料はやはり生物なので現場管理をした方が良いと感じた。
議事録は今は安価で精度の良いスマートウォッチが出てるのでそちらの方が楽そう。
ブルーカラーAIはまだハードルが高いと感じた。
AIに頼りすぎるようになると技術、知識の低下につながるのかと感じた。
まだ弊社ではお金をかけてまでAIを導入する企業ではないのかと感じた。
塗装スタッフの評価
Y氏
お疲れ様です。
AI使いやすいです。
文字の変換がなかなか上手くいかなくて手打ちになることが多いのでそこが改善されると良いと思いました。
日報の転送先に自動で社員別に入るようになると良いと思いました。
A氏
最初の日報はやり方が複雑だったけど、変えてもらった方は使いやすかったです。
ただ、外国人の名前がうまく変換されず苦労しました。
H氏
良かった点
作業日報作成が簡単になった点
悪かった点
作業日報作成以外は使う事が無さそうな点
です。
コメントを拝読して、現場の感覚は正直だと改めて感じました。「使いやすい」「楽になった」という声がある一方で、「日報以外は使わなそう」「お金をかけてまで導入する段階ではない」という冷静な評価も出ています。これが塗装業のAI導入の現在地です。
現場定着の課題
今回の検証で浮き彫りになった課題を整理します。
① 音声変換の精度問題
スタッフから最も多かったご指摘が「文字変換がうまくいかない」という点です。特に外国人スタッフの名前・専門用語・方言への対応が弱く、結果として手打ちが発生しました。音声入力の恩恵が半減する状況です。
② 初期設計の複雑さ
「最初のバージョンは複雑だった」という声が複数ありました。現場スタッフが初回から迷わず使える設計にしないと、第一印象で「使いにくい」という評価が定着してしまうリスクがあります。UI設計のシンプルさは、現場定着の最重要条件です。
③ 日報以外の用途が見えにくい
「日報作成以外は使わなそう」という声が示すように、日報以外の業務への応用イメージが現場に届いていませんでした。ツールの可能性を伝える前に、現場が「自分ごと」として使える業務を確実に定着させることが先決です。
④ 技術・知識の低下リスク
社長のコメントにあった「AIに頼りすぎると技術・知識の低下につながる」というご懸念は、現場感覚として非常に重要な指摘です。特に特殊塗装のような職人技術領域では、AIは補助ツールに留め、判断・技術の主体は職人に置く設計が必要です。
⑤ 導入コストへの見合い感
「まだお金をかけてまでAIを導入する段階ではない」という社長の評価は、現時点での検証結果に対する正直な経営判断です。効果が出た部分はありますが、全社展開・有償ツール導入を正当化できるROIには現時点では届いていません。
建設業DXの可能性
課題は多くあります。それでも可能性はあります。今回の検証はその両方を示しています。
日報の集計・転記という「誰がやっても同じ単純作業」は、AIによる自動化の効果が明確に出ました。
社長の管理工数が年240時間削減されるという数字は、30名規模の会社にとって無視できない価値です。
モールテックスの配合算出も同様です。10〜15分の計算が10秒になることは、熟練職人の判断時間を奪うのではなく、「計算の起点を即座に出す」という形で職人技術を支援する使い方ができます。
建設業・塗装業のDXが他業種より遅れている理由は、現場環境の特殊性と人材構成の多様性にあります。
屋外・雨天・騒音・外国人スタッフの混在という条件下で機能するツール設計は、オフィス用途の設計とは別の発想が必要です。
今回の検証が示す現在地はこうです。
「一部の業務には使える。全社展開するには設計の洗練と現場教育が必要」。
まだまだ改善、向上の余地があるということです。
まとめ
今回の検証を一行で申し上げれば、「日報はDXできました。現場全体のDXはこれからです」に尽きます。
| 検証項目 | 結果 | 現場評価 |
|---|---|---|
| 日報作成のAI化 | 作業時間67%削減・郵送費ゼロ | ◎ 実用レベル |
| 議事録作成 | 技術的には可能 | △ 他手段と比較検討の余地あり |
| 特殊塗装配合計算 | 算出10秒(最終判断は職人) | ○ 補助ツールとして有効 |
| 全社AI定着 | 現時点では未達 | △ 継続支援が必要 |
改善できた部分には正直な数字があります。定着しなかった部分にも正直な声があります。
どちらも同じ重みで記録することが、この検証レポートの役割です。
塗装業・建設業でAIの導入をお考えの経営者の方にお伝えしたいことは一つです。
まず「毎日発生する・繰り返しが多い・アナログコストが見えている」業務を一つ選ぶことから始めてください。
全社DXを目指す前に、一つの業務を確実に定着させることが先決です。
今回の検証に快くご協力いただいた企業の皆様に、改めて感謝申し上げます。
現場の率直な声と正直な評価が、この記事のすべての価値の源泉です。
